「うちの犬はあまり水を飲まない」と思っていませんか?
あるいは、「あまりオシッコをしないけど我慢し過ぎかしら?」と疑問に思ったりはしていないでしょうか。
水の摂取量の不足や、オシッコの我慢しすぎは、膀胱炎になることがあります。
実は犬にとって膀胱炎は厄介な病気で、放置すると最悪は命にかかわることもありますので、日ごろの観察による早期発見と、予防がとても重要となります。
ここでは、膀胱炎になる原因や症状の他、関連する他の疾患、水分の取り方やチェック方法を含めた予防策について、詳しくご説明します。
最後までお読みいただくことで、膀胱炎に関する必要な知識が得られ、愛犬の健康を守る対策が取れるようになります。
すでに膀胱炎でお悩みの飼い主さんにも、有益な内容となっています。
目次
2.犬が膀胱炎になる5つの原因
2.1.尿路結石による二次災害で膀胱炎に
2.2.膀胱炎のほとんどが細菌感染
2.3.膀胱腫瘍や事故などで受けた外的要因
2.4.水分の摂取量が足りない
2.5.ストレスも膀胱炎の原因に
3.見逃さないで!膀胱炎の症状
3.1.尿に異変! 異常に臭い、濁っている
3.2.細菌感染が悪化し血尿する
3.3.膀胱結石により頻尿
3.4.初期症状の一つ水をたくさん飲む
4.動物病院の検査方法と費用
4.1.尿検査で白血球の量と細菌のチェック
4.2.尿のpH検査
4.3.正確な判断をするときは負担の大きい膀胱穿刺
4.4.エコー検査で膀胱の状態をチェック
4.5.病院によって異なる膀胱炎検査の費用
5.犬の膀胱炎は手術が必要になることもある
5.1.尿路結石は療養食事で溶かすことが出来る
5.2.細菌を特定し投薬治療|抗生物質で対応
5.3.腫瘍による膀胱炎は癌の可能性もあるので手術を要する
6.犬の膀胱炎の市販薬
6.1.膀胱炎のお供ナリジクス酸
6.2.通販でも買えるクランベリー成分が配合されたサプリ
7.膀胱炎になる前に未然に防ぐ3つの予防法
7.1.細菌感染させないためにも犬とその周りを清潔に
7.2.常に尿チェック、気づいたときにすぐ病院!
7.3.水分量の多い食事
1.犬の膀胱炎とは
犬の膀胱炎とは、尿を溜める袋である膀胱に炎症がおきた状態を言います。
主に尿道から細菌が入って膀胱に到達し、炎症を引き起こした状態を指します。
メスはオスに比べて尿道が短いため、膀胱炎にかかりやすいと言われています。
膀胱炎には、発症の仕方によって急性と慢性があります。
急性症状を放置すると慢性化し、腎盂肝炎や尿路結石といった合併症を引き起こすことがあります。
犬の膀胱炎は、泌尿器系疾患の中でもかかりやすく、一度完治しても再発を繰り返すことが多い病気です。
自然治癒はしないため、症状が出たら重症になる前に、早く獣医師に相談してください。
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2.犬が膀胱炎になる5つの原因
犬が膀胱炎になる原因は何なのでしょう。
主な原因として5つ挙げられます。
それぞれについて詳細に見ていきましょう。
2.1.尿路結石による二次災害で膀胱炎に
尿路結石とは、膀胱、腎臓、尿管、尿道などの、オシッコの通り道(尿路)にできる結石の総称です。
尿路結石は構成成分によって分類され、結石の種類によって治療法が異なります。
結石は普段尿の中にある成分で作られます。
水分摂取量の不足、尿の排泄回数が少ない、尿路の細菌感染、偏った食事、遺伝的な代謝の問題がきっかけで、結晶ができ、次々と固まって結石となります。
結石の元となる結晶は、角がありとても固いものです。
初期では尿道内を小さな結石がチクチクと内側から刺激し、膀胱の粘膜を傷つけます。
次第に炎症が起こり、膀胱炎を引き起こしたり、血尿が出たりします。
オスはメスに比べて尿道が長く細いため、尿路結石による膀胱炎はオスの方が発症しやすいと言われています。
結晶から引きおこる膀胱炎は、痛みを伴うことが多く、何度もトイレに行くようになります。
結石がだんだん大きくなると、尿道をふさぎ、次第に尿を排泄することが出来なくなります。
老廃物の集まりである尿が体外に出せなくなると、体の中に老廃物がとどまり、腎臓にダメージを与えます。
ひどくなると尿毒症や急性腎不全の症状が出ることもあり命にかかわります。
気が付いたら早めに獣医師に診てもらいましょう。
では、尿路結石にはどんな種類があるのでしょう。
尿路結石の中でも、全体の80%~90%を占めると言われるのが、次の2つです。
- ストルバイト結石
多くは大腸菌などの細菌が尿道から入り、繁殖することで尿路等の感染症や、膀胱炎を引き起こし、それが原因でストルバイト結石になります。
正常な尿は弱酸性で、本来は尿中でリン酸アンモニウムマグネシウムを溶かします。
しかし細菌によって尿がアルカリ性になることで、溶かすことができず結晶となり、結晶がくっついてやがて結石となります。
まれに細菌感染をせずにストルバイト結石ができる犬もいます。
水分摂取量が少ない場合、尿も少なくなるため、排尿回数が少なくなり、尿が膀胱に長時間溜まっていることで濃縮され、結石をつくる原因となることがあります。
犬種では、ミニチュア・シュナウザー、プードル、コッカー・スパニエル、ビション・フリーゼで発症が多いようです。
- シュウ酸カルシウム結石
シュウ酸が体内に吸収されて尿が作られる時に、カルシウムと結合して結石を作ります。
主に腎臓で作られるため、水分摂取量が少なく尿が少ないと、腎臓がシュウ酸とカルシウムで飽和状態になり、結石ができやすくなります。
ストルバイト結石になり、アルカリ性の尿を改善させようとして、逆に酸性の尿になり過ぎてシュウ酸カルシウム結石ができるケースも少なくありません。
比較的シニア犬に多く見られる結晶ですが、水分摂取量が不足している場合や、食事のミネラルバランスが偏っている場合にも発症します。
犬種では、ミニチュア・シュナウザー、プードル、ヨークシャーテリア、ビション・フリーゼ、シーズー等で発症が多いようです。
割合は少ないのですが、その他にも以下のような種類があります。
- 尿酸アンモニウム結石
尿中に大量に排出された尿酸とアンモニウムが結合して結晶ができます。
高タンパクで、特に内臓類や獣肉類が多い食事を摂取していると、発症しやすくなります。
ダルメシアンは遺伝的になりやすいと言われています。
他には、ヨークシャーテリア、ミニチュア・シュナウザー、ヨークシャーテリア、ペキニーズが発症の多い犬種と言われています。
- シスチン結石
腎尿細管輸送の遺伝的な疾患が原因です。
両親から欠陥遺伝子を受け継いだ場合のみ、シスチン尿症を発症し、これが主な原因と考えられています。
しかし、シスチン尿症が必ず結石を引き起こすわけではないため、他にも何らかの原因があるとされていますが、明らかにはなっていません。
酸性尿の状態においてシスチン結石が作られます。オスに多く、年齢的には3~6歳齢に多い傾向と言われます。
犬種では、ダックスフント、ヨークシャーテリアに多いと言われています。
- ケイ酸結石(シリカ結石)
ケイ酸塩、ケイ酸、ケイ酸マグネシウムの摂取に関係があると言われています。
尿中に結晶はなく、結石が金平糖のような形をしているのが特徴です(ただし、金平糖の形が全てケイ酸結石ということではありません)。
尿が酸性傾向にあると結石ができやすくなります。
中年齢(4~9歳齢)のオスに多く、犬種ではジャーマン・シェパード、ラブラドールレトリバー、ゴールデンレトリバー等に多いと言われます。
2.2.膀胱炎のほとんどが細菌感染
犬の膀胱炎で最も多い原因は細菌感染です。
大腸菌やブドウ球菌などの細菌が、外部から尿道へ入り、尿管を逆行して膀胱に到達し、膀胱が炎症を起こして膀胱炎となります。
メスの場合は排尿のスタイルが地面に近く、尿道も短いためオスより細菌の侵入を容易にしてしまいます。
また、膣からの細菌感染も多く、そのため比較的メスが膀胱炎になりやすいと言われます。
しかしそれだけでなく、オス・メスともに外で排泄する時には地面や草などに触れる機会はあります。
腹這いになって寝そべったりもします。
室内でも、不衛生なトイレや床、ベッドなどでは細菌が侵入してくる可能性は十分にあります。
本来、少しの菌が外から入ってきたとしても、健常な犬であれば排尿で細菌を出して、細菌の繁殖を防ぎます。
しかし、オシッコを我慢し過ぎて、膀胱内に長時間オシッコがあると濃縮され、膀胱内での細菌の繁殖を許してしまいます。
水分摂取量が少なくて排尿が少ない犬にも同じことが言えます。
2.3.膀胱腫瘍や事故などで受けた外的要因
膀胱腫瘍とは、膀胱内の粘膜から発生する腫瘍のことです。
多くは「移行上皮癌」と呼ばれる悪性腫瘍、つまり膀胱癌ですが、良性腫瘍や慢性膀胱炎によるポリープなども見られます。
初期の症状としては、血尿や頻尿が出ます。
そのため膀胱炎と見分けがつきにくく、初期症状が続いていたらきちんと診察してもらう必要があります。
この膀胱腫瘍によって膀胱が傷ついて、膀胱炎になることもあります。
いずれにしても、症状が出たら放置しておいてはいけないものです。
少しでも気になる症状が出たら、早めに獣医師に診せ、必要な検査を受けさせましょう。
外的要因でも膀胱炎になることがあります。
お腹を強く蹴られたとか、交通事故など、外部からの衝撃で直接膀胱が傷つき、それが原因で膀胱が炎症を起こし、膀胱炎を引き起こすこともあります。
しかし、そのような強い衝撃を受けさせてしまった場合、外傷がないから内傷もないとは言えません。
膀胱破裂や、その他の臓器が破裂していたら大変ですから、血尿などの症状が出る前に診察させる方が適切です。
(膀胱腫瘍とは何か、膀胱炎とどうか変わっているのかを説明し、事故などで膀胱を傷つけた行為も膀胱炎に繋がることを説明してください)
2.4.水分の摂取量が足りない
水を飲む量が少ないと、どうしても排尿の頻度が少なく、尿の量も少なくなります。
排尿は、尿道から侵入してくる細菌を洗い流して体外へ排出させるのですが、膀胱が感染する前に菌を追い出してくれるこの作業が少ないと、細菌の繁殖を許してしまい膀胱炎になりやすくなります。
また、排尿頻度が少ないという事は、尿が長時間、膀胱内に留まることになり、膀胱内での細菌繁殖をしやすくさせてしまいます。
膀胱炎だけでなく、犬の健康のためにも、最低限必要な水分摂取を心掛けてください。
夏は夏バテ、冬は乾燥で体の水分が不足します。
排泄を我慢させると、できるだけ水分を摂取しない行動をとるようになります。
老犬は食欲と同時に水を飲む量も減りがちです。
状況に応じた対策を講じてください。
お水の容器は毎日洗って清潔に保ち、犬がいつでも飲めるようにしておきましょう。
食事や水分量、犬に水を飲ませたい時の工夫は7.3.項でご説明します。
2.5.ストレスも膀胱炎の原因に
トイレのしつけにおいては、失敗は叱らない方が良いのですが、度重なるとつい怒鳴ったり説教したりしてしまいます。
はみ出してしまった時もそうですね。
実はこれが犬のストレスになり、トイレを我慢するようになり、膀胱炎を引き起こすことがあります。
もしトイレのしつけで叱る場合、叱り方とタイミングを間違えると、「失敗したこと」を叱られたのではなく、「トイレをしたこと」を叱られたと犬が勘違いしてしまうのです。
そのため、犬は叱られないように、トイレを我慢するようになってしまいます。
我慢すれば水分を控えるようになり、結果水分摂取量が不足し、膀胱内に尿が長時間にわたって留まり、膀胱炎を引き起こすのです。
また、直接「ストレス」が膀胱炎につながることもあります。
運動が足りない、怖い、暑い、寒い、嫌な経験をした、など、犬がストレスと感じることでストレスホルモンが分泌されます。
コルチゾールと呼ばれるステロイドの1種で、ストレスに対抗するために本来は必要なものですが、逆に慢性的なストレスで大量に分泌されると、抗炎症作用が続き、免疫機能が抑制され続け、免疫力が低下してしまいます。
免疫力が下がると細菌に感染しやすくなるため、膀胱炎の原因になります。
膀胱炎を繰り返して慢性化させる原因の1つですので、日常的に犬にストレスがかかっていないかも見ておく必要があります。
3.見逃さないで!膀胱炎の症状
膀胱炎は慢性化するケースが多い病気です。
尿路結石や前立腺炎などの病気をひきおこすこともあるため、早期治療が重要です。
症状が出ていないか常にチェックをして、早期発見を心掛けましょう。
3.1.尿に異変! 異常に臭い、濁っている
膀胱炎にかかると菌が膀胱内で繁殖しているため、尿の臭いがきつくなります。
色もきれいな黄色ではなく、濃くなっていたり、膿が出ていると白く濁ったりし、排尿時の痛みや残尿感が出るため、他にも尿をしたそうな仕草を頻繁に見せます。
痛みや不快感からやたら陰部を気にして舐める、排尿が終わった後も尿が垂れている、といった行動や症状を見せ始めたら、膀胱炎を疑いましょう。
メスの場合は膣から分泌物が出ていることもあります。
朝一番にする尿は、多少臭いがきつく、黄色も少し濃いので、普段から臭いや色、量、回数を良く観察しておき、いつもと違っていると気付くことが大切です。
ペットシーツに排尿する場合はわかりやすいのですが、そうではない場合は発見が遅れがちになるので気を付けて見るようにしましょう。
3.2.細菌感染が悪化し血尿する
尿がピンク色や赤茶色になっていると、血尿になっています。
膀胱内の細菌感染が悪化してくると、膀胱内の粘膜を傷つけ、血尿が出るようになり、血の塊が出てくることもあります。
膀胱炎と尿道炎は症状が良く似ていますが、膀胱炎の場合は尿全体、または尿の終わりに血が混じります。尿道炎は尿の始まりに血尿が出ます。
ペットシートで確認できる場合は発見しやすいのですが、そうでない場合は排尿時と、排尿した場所をよく見ておきましょう。
血尿と同時に嘔吐するときは、膀胱炎ではなく急性腎不全が疑われます。
この場合、他にも食欲不振や下痢などの症状が一緒に出ていることが多いです。
急激に悪化し、命の危険もあるので、すぐに獣医師に診てもらってください。
いずれにしても、血尿が見られたら、あるいは「血尿かな?」と疑わしい時は、早めに獣医師に診てもらうことです。
3.3.膀胱結石により頻尿
排尿の頻度が多くなり、尿の量が少ないようであれば、膀胱結石の疑いがあります。
尿路結石の中で膀胱結石は最も発症頻度が高く、膀胱内に結石ができた状態を言います。
持続的な膀胱出血の原因となり、膀胱内の小さな結石が尿道を塞いで尿が出にくくなります。
そのため頻尿になり、1回の尿の量は少なくなります。
痛みを伴うため排尿姿勢が背中を丸めたようになり、血尿や、膀胱に尿が溜まることでお腹の膨らみもでます。
ひどくなると尿道閉塞を引き起こす危険性があります。
尿道閉塞になると排尿が出来なくなったり、膀胱が破裂して急性腎不全を起こすといった、深刻な状態になります。
頻尿(血尿の場合が多い)と嘔吐が同時に出た場合は、膀胱炎ではなく急性腎不全が疑われますので、すぐに獣医師の診察を受けましょう。
3.4.初期症状の一つ水をたくさん飲む
膀胱炎の初期症状は、頻尿気味になり、水をよく飲むようになるのですが、1回で排泄される尿の量は少ないことが多いです。
尿は腎臓で作られますが、その過程で異常が起こると水分が吸収できなくなり、体内の水分が不足します。それによって水をよく飲むようになります。
注意したいのは、膀胱炎の初期症状だけではなく、水を沢山の飲むようになった場合は、腎臓病や糖尿病など、他の疾患も疑われるということです。
飲料量の変化だけでなく、他の症状が何か出ていないか注意深く観察し、普段よりも水を多く飲むようになっていたら、獣医師の診察を受けるようにしましょう。
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4.動物病院の検査方法と費用
実際に膀胱炎が疑われる、膀胱炎にかかったといった場合、どんな検査があり、費用はどのくらいかかるのでしょう。
一般的に行われる検査と費用について詳細をご説明します。
4.1.尿検査で白血球の量と細菌のチェック
通常、膀胱炎が疑われる場合は、尿検査をして尿中の白血球を調べます。
尿沈渣といって、尿中の沈殿物を顕微鏡で見て、白血球の数を調べます。
一般的な数より多くなっていれば膀胱炎と診断されます。
膀胱炎を確定診断する際や、原因となっている細菌を特定する際には、尿中の細菌を培養して検査しますが、尿中の細菌検査は、尿の取り方が重要となります。
飼い主さんに採尿をしてもらうケースでは、尿道口から出てきた尿を取るので、どうしても細菌が途中で混入してしまいます。
そのため、「尿中に確かに細菌が含まれている」と判断する一般的な目安が、100,000個/mlと大きくなります。
尿道からカテーテルを挿入して採尿すると、一般的な目安は10,000個/mlと精度が上がります。
最も正確な方法は膀胱穿刺(4.3.項で詳細)です。
頻尿があると検査に必要な量を取ることが困難になり、症状や状況によって、獣医師と最適な方法を相談してください。
4.2.尿のpH検査
尿検査では、白血球や細菌の数の他に、pH検査も必要です。
尿のpHがアルカリ性に傾いているか否かを見るのですが、細菌感染していると尿がアルカリ性になり、他の検査と併せることで膀胱炎の診断に使います。
犬の尿は、正常では弱酸性で、平均値はpH6.4±0.2と言われており、(検査では0.5単位が通常なので、平均値は6.5前後と言われることが多いです)尿中の細菌を増やさないように、尿が弱酸性になっているのです。pH7.0が中性になります。
気を付けなくてはいけないのは、「平均値」と言われている理由です。
犬の尿のpH値は、空腹時は酸性、食後はアルカリ性と、1日のうちである程度変動します。
ですから1回の検査ではなく、本来は1日でする尿をすべて検査し、その平均値が弱酸性であるかを見る必要があります。
また、毎回の尿が正常値とされるpH5.5p~H7.0内で収まっていることが必要です。
尿のpH値がずっとアルカリ性に傾いていると、ストルバイト結石の原因になります。
逆に酸性であると、シュウ酸カルシウム結石の原因になります。
4.3.正確な判断をするときは負担の大きい膀胱穿刺
4.1.項で尿の細菌検査に触れましたが、正確な判断が必要な場合には膀胱穿刺という検査が必要になります。
この方法では目安が1,000個/mlとなり、途中で余計な細菌が混入しにくい最も望ましい細菌検査方法と言えます。
この方法は、膀胱に針を刺し、膀胱をエコーで見ながら採尿し、お腹に直接注射のような針を刺すことで、膀胱内の尿を取り出し、検査しますので犬にも負担はかかります。
飼い主さんも躊躇を感じる場合が少なくないようで、獣医師の方針や犬の状態にもよりますが、より正確な検査が必要とされる場合は、受けることを検討した方が良い検査方法です。
4.4.エコー検査で膀胱の状態をチェック
膀胱の状態をみて診断する時には、画像検査が行われます。
一般的には腹部の臓器を診断するのに優れたエコー検査(超音波検査)が用いられ、膀胱内の炎症の有無や、結石や結晶がどのくらいあるかを調べます。
エコー検査では、膀胱内に炎症が起きていると、膀胱粘膜がザラザラして見え、また、水分は黒く写るのですが、これにより、結石の数や大きさを見ることができるのです。
エコー検査は臓器の動きや状態が即座にわかるので、尿検査と同時に診断時に行われるとこが多いようで、獣医師や犬の症状によりますが、必要に応じて膀胱だけでなく腎臓を見たりし、尿路全体をエコーで確認することもあります。
エコー検査でもし腫瘍がみられた場合は、大まかな位置や膀胱以外への転移の有無も確認することができます。
特に、尿路結晶や膀胱腫瘍が疑われる場合は、確実な診断をするためにレントゲンを撮ることもあります。
4.5.病院によって異なる膀胱炎検査の費用
あくまでも参考までに、一般的な相場としての検査費用をご説明します。(初診料や再診料は含まず、検査だけの費用、税抜き、救急は含まないとして)
- 尿検査:1.000~2,000円位
この費用は尿を持参する場合で、尿試験紙と尿沈渣、尿比重を含んでの費用です。
尿試験紙が別の場合は、尿試験紙が500円位、尿検査が500~1,500円位となっていることが多いようです。
院内採尿になると、3,000円位から、かかる時間や宿泊有無によっては加算があります。
- カテーテル採尿:500円~2,000円
採尿のみの費用です。これに尿検査が加わります。
- 膀胱穿刺採尿:1,000~2,000円
採尿のみの費用です。これに尿検査が加わります。
- エコー検査:3,000円~5,000円位
超音波検査と書かれていることが多いです。
参照:家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査(平成27年度)
http://nichiju.lin.gr.jp/small/ryokin_h27/
5.犬の膀胱炎は手術が必要になることもある
膀胱炎は耳慣れた病気ではありますが、放置すると繰り返してしまい、尿路結石や腫瘍を引き起こして、手術をしなくてはいけなくなるケースもあります。
ここでは治療と薬について触れると同時に、どんな時に手術が必要になるのかご説明します。
5.1.尿路結石は療養食事で溶かすことが出来る
ストルバイト結石が膀胱内にできている場合、尿のpH値をコントロールする食事療法で溶かすことが期待できます。
結石が出来てしまうと、結石が膀胱内を傷つけて炎症を引き起こし、膀胱炎を発症させます。
結石の影響で排尿頻度が減り、膀胱内の尿が濃縮されてしまうことも、膀胱内の細菌繁殖を促進してしまうので膀胱炎の原因にもなります。
ですから、結石を溶かしてなくすことは、膀胱炎の原因を取り除くことになります。
ストルバイト結石は、尿がアルカリ性になっているためにできる結石ですので、酸性に傾かせる食事をします。
食事療法で尿のpH値を変えることによって、尿中で結石を溶かす治療法です。
低カルシウム、低マグネシウム、低タンパク質の食事を与えることにより、尿が酸性に傾き、結石が溶けて排出されていきます。
一般的には、ストルバイト溶解用療法食を用います。
尿が酸性に傾くようにバランスがとられたフードです。
これを使用している間は、他の食べ物はあげないことです。ミネラルバランスが崩れてしまいます。
注意は、塩化ナトリウムが添加されていることが多く、たんぱく質も制限されています。
そのため、水分過剰や高血圧など、別の病気の引き金になることがあります。
特に、結晶が解消した後、尿のpH値が正常に戻る犬の場合、日常的に与えることは良くありません。
結石が解消して再発予防の為に療養食を続けたい場合、またはお手製の食事を希望する方は、獣医師とよく相談し、その犬に合った食事バランスを把握してから食事療法をされることをおすすめします。
残念ながら、シュウ酸カルシウム結石は尿中で溶かすことはできません。摘出手術となります。
5.2.細菌を特定し投薬治療|抗生物質で対応
膀胱炎で細菌感染がある場合は、細菌の種類を特定し、抗生物質(抗菌剤)を投薬して治療します。
抗生物質は投与期間や用法を守って使用することが大切です。
処方されたら獣医師に良く説明を受けましょう。
- クラベット錠
アモキシシリンとクラブラン酸の2つの有効成分で、細菌に対する広域かつ強力な殺菌作用を持つ抗生物質です。
比較的安全で、広い抗菌スペクトルを持つことから、細菌による感染症には良く使われます。
ペニシリン系の抗生物質です。
有効菌種:グラム陽性菌、大腸菌、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属、淋菌、プロテウス・ミラビリス、梅毒トレポネーマ、インフルエンザ菌、一部のグラム陰性菌
投薬期間:1日2回経口投与、一般的な感染症では5~7日、または症状の消滅から48時間後まで継続投与。慢性膀胱炎の場合は10~28日の投与が必要となる場合がある。
副作用:わずかに下痢、嘔吐、食欲不振がみられることがある。
- バイトリル錠(バイシロン)
尿路感染症を治療する薬で、幅広い細菌に対応できる、エンロフロキサシンを有効成分としたニューキノロン系の抗生物質です。
有効菌種:ブドウ球菌属、レンサ球菌属、腸球菌属、大腸菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、プロテウス属、シュードモナス属、ステノトルホモナス・マルトフィリア、アシネトバクター・カルコアセティクス
投薬期間:1日1回、原則として7日以内。14日までの追加投与は慎重に行うこと。12ヶ月齢未満には使用しない。
副作用:嘔吐、食欲不振、流涎がみられることがある。
- リクセン錠(リレキシペット)
ブドウ球菌に優れた効果を発揮する、セファレキシンを有効成分としたセフェム系の抗生物質です。
嗜好性が高いフレーバー錠になっており、飲ませる苦労が少ないお薬です。
有効菌種:ブドウ球菌
投薬期間:1日2回経口投与、7日間継続。2回目の投与間隔は最低10時間あける。
副作用:一過性の嘔吐、食欲不振がみられることがある。
- ビクタス錠
有効菌種:ブドウ球菌属、レンサ球菌属、腸球菌属、大腸菌、クレブシエラ属、プロテウス属、緑濃金、パスツレラ・ムルトシダ、クロストリジウム・パーフリンゲンス、カンピロバクター・ジェジュニ
投薬期間:1日1回経口投与、8日以上の連続投与は避ける。3か月齢以下への使用は慎重に。
副作用:嘔吐、下痢、食欲不振が見られることがある。
- クラブロックス(クラバモックス)
アモキシシリンとクラブラン酸の2つの有効成分を配合した抗生物質で、液体タイプになります。
有効菌種:グラム陽性菌、グラム陰性菌
投薬期間:1日2回経口投与、口当たりを良くするために水で薄める。
副作用:わずかに下痢、嘔吐、食欲不振がみられることがある。繁殖用に犬への安全性は確認されていないので使用は控える。
5.3.腫瘍による膀胱炎は癌の可能性もあるので手術を要する
膀胱腫瘍による膀胱炎では、膀胱腫瘍で最も一般的な移行上皮癌(TCC)と呼ばれる癌腫瘍である可能性が高いため、手術で腫瘍を取り除かれることになります。
2.3.項で説明した通り、膀胱腫瘍と膀胱炎は症状が似ているので注意が必要です。
もしエコー検査で腫瘍が認められた場合は、まずその腫瘍が良性か悪性かを判断するため、カテーテルか膀胱鏡検査などで細胞を採取し、病理診断をします。
良性であっても大きさや状態によりますが、通常は摘出手術となっており、腫瘍が悪性と認められた場合はステージングを行い、治療法を決めます。
手術療法で外科的手術を行い、さらには放射線治療や抗癌剤治療などが必要になることもありますが、犬にとっては精密な尿検査よりも負担です。
こうなる前に、膀胱炎の予防と早期発見・治療に努めましょう
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6.犬の膀胱炎の市販薬
膀胱炎の薬は通信販売で購入できるものもあります。
また、効果的と言われるサプリメントがありますので、ご紹介します。
6.1.膀胱炎のお供ナリジクス酸
主にグラム陰性菌に対する抗菌作用が強く、尿路感染症や膀胱炎に良く用いられる抗生物質の一種です。
古くから膀胱炎に使われている薬剤で、ナリジキシンさんとも呼ばれる、キノロン系の抗生物質です。
基本的に薬局で販売されており、値段は2000円前後ととても買いやすい値段です。
メーカー:ナカライテスク ナリジスク酸 SDS有(試薬)
6.2.通販でも買えるクランベリー成分が配合されたサプリ
何度も膀胱炎を繰り返すと、抗生物質の度重なる使用に抵抗を感じたり、他の持病があって薬を多用することを心配する飼い主さんもいらっしゃるでしょう。
クランベリーは昔から、抗酸化作用・殺菌・抗菌作用があると言われ、尿路感染症に使用されています。
加工されていないクランベリーには、プロアントシアニジンが含まれており、尿路感染症の主な原因である大腸菌が、尿路壁に付着することを防ぎます。
また、キナ酸と呼ばれる有機酸が、腸管で吸収され、いくつかの過程を経て馬尿酸という物質になり、この時に尿のpHが酸性化するので、膀胱内に細菌がとどまりにくい環境になります。
つまり、細菌の付着を防ぎ、尿の酸化で細菌繁殖を抑えるという2つの点で、クランベリーは膀胱炎の予防に役立つので、サプリメントとして、ジュースやパウダー状、顆粒、錠剤などで摂取しましょう。
注意することは膀胱炎に対する効果は期待できますが、膀胱炎がひどい時にクランベリーで治そうとするのはさすがに無理があります。
獣医師と相談の上、補助として、また再発を防ぐ予防として利用する方が効果的と言えますし、どんなものでも過剰摂取は禁物です。
大量に摂取すると下痢や消火器障害を起こすことがあります。
クランベリージュースを長期に摂ると、腎臓結石になることもあり、セルシンやワーファリンなど、クランベリーと飲み合わせが悪い薬もあります。
何かで服薬中の時は、飲み合わせにご注意ください。
7.膀胱炎になる前に未然に防ぐ3つの予防法
膀胱炎にならないよう予防する方法があります。
再発を繰り返す厄介な病気で、完全な完治までには時間がかかる膀胱炎を予防する方法をご説明します。
7.1.細菌感染させないためにも犬とその周りを清潔に
何といっても「清潔第一」です。細菌感染させないためには、細菌を寄せ付けない清潔な生活環境を作りましょう。
外での排泄時に、陰部が地面や不潔な場所に触れたり、メスの場合は特に膣も触れることがあるので、排泄場所にも気を付けます。
しかし、細菌感染は外で起こるだけでなく、室内でも起こります。
犬のトイレは掃除を徹底して常に清潔にし、糞尿や餌の食べ残しをそのままにしない、犬の居住スペースやベッドもこまめに掃除して清潔に保つことを心掛けましょう。
犬はどこでもお座りや寝そべる、腹這いになります。
こまめなシャンプーや水洗いで、陰部も清潔にしておきましょう。
排尿をなるべく我慢させないことも大事ですが、万が一膀胱内に細菌が入ってしまっても、こまめに排尿することで体外へ細菌を出すことができるので、膀胱内での繁殖を抑えるよう努めましょう。
排尿をするということは、尿路を洗い流すということになるのです。
7.2.常に尿チェック、気づいたときにすぐ病院!
排泄物は健康のバロメーターです。
犬の尿は常にチェックし、毎回の色や臭い、量、回数を把握します。
さらに、尿検査は家でもできます。
簡易的にpH値を調べるpH試験紙から、pHだけでなくたんぱく質やブドウ糖などもわかる、3~7項目を調べられる試験紙が市販されています。
おかしいな、と気づいたときはもちろん、日ごろから食事バランスを保ち、膀胱炎や結晶・結石を予防するためにも、利用する価値がある家庭用検査紙です。
何らかの異常がみとめられたら、あるいは仕草などでおかしいな、と思ったら、早期治療が最善ですので、すぐに獣医師に相談することをおすすめします。
7.3.水分量の多い食事
膀胱炎の予防では、適切な排泄を促すことが大切です。
そのためには水分摂取量を適切にすることが重要です。
2.4.項で説明した通り、水分量が足りないと膀胱炎に繋がります。
犬が1日に必要とする水分量の目安があります。
一般的には2つの計算式で必要な摂取量を把握します。
「1日の最低限水分摂取必要量(ml)= 132 x 体重kg x 0.75」
この計算式で行くと、例えば3kgの犬と5kgの犬の場合は以下のようになります。
132 x 3kg x 0.75 = 297ml
132 x 5kg x 0.75 = 495ml
こちらの計算では若干多めの水分量になります。
「1日の最低限水分摂取必要量(ml)= 体重g x 0.05~0.07」
同じく例えば3kgの犬と5kgの犬の場合は以下のようになります。
3,000g x 0.05~0.07 = 150~210ml
5,000g x 0.05~0.07 = 250~350ml
2つの計算式によると、幅があってどちらが良いの?ということになります。
ぴったりとxxmlという答えは机上で出せません。
ここで気を付けたいのが、普段の犬の生活習慣とライフステージです。
運動量が多い犬は少し多めになります。老犬は少なめになります。
そして食事でも変わってきます。
ドライフードだけですと、フードの水分量はせいぜい10%です。
ですから飲料としての水分は多めに考えた方が良いのですが、逆に水分量を多く含む食事をしている場合は、少なめに考えることができます。
キュウリやトマトなどの水分を多く含む野菜や、ウェットフードでは、食事に水分が多く含まれています。
おやつや食事と違い、水は飲みたい時や体が欲しているときしか飲みませんので水をあまり飲まない犬は、水分を多く含んだ食事をさせ、水分量の確保に工夫をしましょう。
水分量が多い野菜やウェットフードを混ぜる、フードに水をかける、野菜や肉のゆで汁をフードにかける、(ただし肉は脂肪分が少ない鳥のささみや胸肉で、与えすぎないように)、犬用ミルクや無糖ヨーグルトを混ぜるなどです。
また、飲料に少し味(香り程度)をつけてあげると飲むこともあります。
果物が好きなら、リンゴやナシ、ミカンなどの汁を少し垂らしてあげると飲むようになることがあります。
注意として、ミネラルウォーターは、マグネシウムやカルシウム等が豊富に含まれているものは多飲に向きません。
大量摂取すると逆に結石症を引き起こすことがあります。
水道水でも問題はありませんが、カルキが気になるようなら、一度沸騰させてカルキ抜きをするか、浄水器を使用するなどが無難です。
また、水分を気にするあまり、極端に野菜だけになるとミネラルバランスが崩れ、尿pHがアルカリ性に傾き結石の原因になります。
つまり、尿pHのバランスが取れる、全体を考えたミネラルバランスの取れた食事が大切となります。
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8.まとめ
犬にとって膀胱炎は、一度かかると大変だということが、おわかりいただけましたでしょうか。
長い治療にもなりますし、その間、犬は辛い思いをし続けます。
慢性化させたり、結石や腫瘍になれば、辛いだけでなく体への負担も大きくなります。
しかし、予防ができることもお分かりいただけたことでしょう。
愛犬に辛い思いをさせないためにも、普段からの予防に努め、健康的に過ごせるように支えてあげてください。
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