犬の出産費用はいくら?実際の費用や出産の流れと自宅出産の注意点

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愛犬に子犬を産ませたいけど、それまでに必要なものや出産に関わる費用ってどうなってるの?とお悩みの飼い主の方は少なくないかと思います。

人間と同じように、犬の出産も心身共に負担がかかるため、もし飼い主側の知識が少なければ安心して愛犬に妊娠・出産させてやることはできないでしょう。

そこで今回は、明確に愛犬に子犬を産ませる予定のある飼い主のために、愛犬が安全に子犬を妊娠・出産するために必要な知識や、犬の出産に関わる諸経費などについて詳しくご説明していきたいと思います。

目次

1.犬の妊娠~出産までのながれ
1.1.交配前の準備
1.2.犬の交配について
1.3.犬の妊娠
1.4.犬の出産

2.犬の出産にかかる費用
2.1.交配相手(種雄)をレンタルする費用
2.2.妊娠検査などの諸経費
2.3.犬の出産費用

3.自宅で出産する場合
3.1.出産に立ち会う場合
3.2.子犬が産まれてこない場合
3.3.母犬が羊膜を破らない、へその緒を噛み切らない、舐めない場合
3.4.子犬の体重測定
3.5.子犬と胎盤の数がピッタリ合うか確認する
3.6.母犬が授乳しない場合

4.妊娠から出産までの注意点
4.1.妊娠から分娩までの間
4.2.母犬の出産時に注意すること
4.3.出産直後に注意すべきこと
4.4.出産後の母犬に対するケアと注意点

5.まとめ

1.犬の妊娠~出産までのながれ

犬の妊娠から出産までの流れとしては、「交配→妊娠→出産」となり、交配する番の犬がいる場合以外は交配相手も探す必要があります。

そこで、この項目では交配前の準備から出産まで大まかな流れをご説明していきたいと思います。

1.1.交配前の準備

交配前の準備として、

  • メスの妊娠および出産適齢期を理解する
  • メスの発情周期を理解しておく
  • 母体となるメス犬が感染症に罹っていないか確認する
  • 交配相手を選ぶ

があります。

オス犬の場合は生後11カ月以降になると1年を通して交配することが可能となりますが、メス犬だと発情期が来たからすぐに交配させて子供を産ませよう、というわけにはいかないのです。

そのため、交配予定のあるメス犬の飼い主は特に交配前にこれらの知識を理解しておく必要があります。

メスの妊娠および出産適齢期を理解しておく

メス犬の場合、およそ生後7か月に初めての発情期が訪れますが、この時期に交配し妊娠させるのは母体となるメス犬の発育を妨げる可能性があるため避けるべきです。

また、1歳未満の場合も母犬が何らかの遺伝的な病気を持っているか判断しづらく、子供にもその遺伝病が受け継がれるリスクが非常に高くなります。

6歳以降になると、筋力や体力が衰え、母犬の体に多大な負担がかかりやすくなり、難産になりやすいとされています。

そのため、メス犬の妊娠・出産適齢期は体が成熟し、体力・筋力ともに万全な2~5歳がベストとされています。

メスの発情周期を理解しておく

通年交配可能であるオス犬とは異なり、メス犬の場合は発情周期があるため注意が必要です。

メス犬の発情周期は1年に2回、90日周期で訪れ、晩夏~初秋、晩冬~初春に発情期が訪れやすい季節とされています。発情期は90日の間、

  • 発情前期
  • 発情期
  • 発情後期

の3つの段階が訪れ、発情期が終わると間に90日を挟んで再び発情期が訪れるサイクルになっています。

発情前期はメス犬の体内でホルモン濃度が上がり始め、頻尿になり、性器周辺をよく舐めるようになり、外陰部が肥大化して子宮内膜が充血し、出血(生理)が見られるようになります。

特に、外陰部の出血量は犬によってまちまちで、少なかったり犬自身がなめとってしまうことで発見が遅れることがあります。

このため、発情期が始まる時期には犬用おむつを履かせて出血の有無を確認しやすくするとよいでしょう。

期間は犬によって異なり、小型犬で10日間、大型犬で2~3週間ほど続くとされています。

高齢になると周期が長くなり、出血も減る傾向にありますが閉経はなく、一生涯続きます。

また、発情前期を迎えたメス犬はフェロモンを分泌し、オス犬に交配可能のサインを出します。そのため、他のオス犬が興奮しやすくなるためできるだけ外出は避けるようにしましょう。

発情前期が終わると次は心身ともに交配する準備が整った発情期を迎えます。

この発情期はおよそ10日(前後3日)ほど続き、発情期に入って2~3日、発情前期から数えて13~14日目で排卵します。

排卵した卵子はおよそ5日ほど受精可能で、排卵日から前後2日、発情前期から数えて11~16日目あたりが最も妊娠しやすい時期とされています。

そのため、望まない妊娠を避けるために愛犬が発情前期を迎えたら、カレンダーなどでこまめにチェックするようにしましょう。

発情期が終わり、発情後期を迎えると、メス犬の精神および身体の状態が発情前期の前の状態に戻ります。

このため、発情休止期とも呼ばれ、期間としてはおよそ60日間続きます。

この時期にはメス犬が妊娠したかそうでないかに関わらず、黄体ホルモンが分泌され、子宮内膜の増殖や乳房が張るといった状態が2カ月ほど続きます。

発情期後半あたりから『プロクラチン』と呼ばれる犬の乳汁分泌にかかわるホルモンが分泌され、妊娠の有無にかかわらず黄体を刺激するため、犬によっては乳房が張り、乳汁の分泌や営巣行動をとったり、ぬいぐるみやほかの小動物を自分の子どもに見立てて世話をするなどといった所謂『偽妊娠(想像妊娠)』になるケースもあります。

プロクラチンの分泌を抑える処置を行えば偽妊娠は収まりますが、何度も繰り返すと乳腺が炎症し、乳腺腫瘍を引き起こしやすくなるため、あまりにも偽妊娠を繰り返す場合は避妊手術も考慮に入れなくてはなりません。

母体となるメス犬が感染症に罹っていないか確認する

発情期を迎え、妊娠・出産に適した年齢に達したとしても、すぐに交配に移るのはあまり適切ではありません。

というのも、犬の胎盤を通じて胎内の子犬に感染する病気(回虫症、鉤虫症など)や流産・不妊になる感染症(ブルセラ症)などに母体となるメス犬が感染している可能性もあるからです。

そのため、交配前にかかりつけの動物病院でこれらの感染症を患っていないか検査するようにしましょう。

交配相手を選ぶ

交配相手を選ぶ際、事前に家庭内で一緒に飼っている番の犬と交配させる以外は外部から探す必要があります。

交配相手は主に所属している団体や愛犬雑誌、動物病院やペットショップ、ブリーダーなどから『種雄』としてレンタルできます。

種雄は有料の場合がほとんどですのでなるべく素人同士での種雄の貸し出しは避け、信頼できる団体や動物病院の紹介で探すようにしましょう。

交配相手を選ぶ基準としては、相手の性格や容姿なども重要ですが、それ以上に遺伝的疾患の有無や遺伝子の相性なども考慮しなければなりません。

特に遺伝的疾患は素人目では確認しづらいため、専門家に相談するようにしましょう。

また、遺伝子の相性は犬種(特にトイプードルなど)によっては毛色の相性が悪い掛け合わせもあるため事前にどの毛色の個体と交配すべきか確認してから選ぶようにしましょう。

交配相手を見つけ、種雄として迎えたとしても、今度は相性が関わってきます。

遺伝疾患もなく、容姿も掛け合わせる遺伝子の相性がピッタリであっても性格が合わなかったり、お互い気に入ったとして交配するのに時間がかかるなど、スムーズにいかない場合もあります。

この場合は飼い主が補助に入ったり、若しくは何度もお見合いをして条件を満たしつつ、相性バッチリの個体を探す必要があります。

1.2.犬の交配について

発情期を無事迎え、交配相手も見つけ、母体の健康状態も良好と準備が整いましたら、交配に入りますが、その前に犬の交配について理解しておきましょう。

犬の交配は、『インブリーディング(近親繁殖)』と『アウトブリーディング(異系繁殖)』、『インターブリーディング(亜種繁殖)』、『アウトクロッシング(異種繁殖)』に分けられ、更にインブリーディングは『インセクチュアルブリーディング(極近親繁殖)』と『ラインブリーディング(系統繁殖)』の2つに分けられます。

『インブリーディング(近親繁殖)』とは、交配する犬同士の関係が5代間の血縁関係にある場合の交配方法で、さらに『インセクチュアルブリーディング(極近親繁殖)』と『ラインブリーディング(系統繁殖)』に分けられます。

インセクチュアルブリーディングとは、親子間もしくは兄弟間で行われる交配方法で、個体の長所が強く出る半面、短所もはっきり現れやすく、特に遺伝病や奇形といった症状なども出やすいといった点があり、ジャパンケンネルクラブなど一部の団体では血統書の発行不許可、もしくは条件付きで『警戒血統』として血統書発行となるため、積極的に行うべきではありません。

ラインブリーディングとは、3~5代間に同一個体の犬が2度以上編入されている(例えば父方と母方の曾祖父が同じ)ことを条件とした近親繁殖を指し、インセクチュアルブリーディングの欠点を補いつつ、その犬種の特徴や性質、長所を維持することを目的としています。

アウトブリーディングとは、インブリーディングと異なり5代間に血統関係のない犬同士を交配させる方法で、病気への抵抗力や免疫力の低下といったインブリーディングの欠点をカバーするために行われます。

その反面、生まれた子犬の容姿や性格が一定に定まらず、生まれて育ててみなければわからないといった欠点もあり、特に血統書付きの犬種の場合はあくまで病気に対する免疫力や体格の欠点を補うためだけに行われます。

なお、血統に特にこだわりのない場合はその限りではありません。

インターブリーディングとは、同一品種かつ毛並みやサイズが異なる独立した犬同士を掛け合わせる(例えば、ロングタイプのダックスフントとショートタイプのダックスフント)交配方法です。

親の性質を受け継ぎつつより変化に富んだ個体を産むことが目的とされていますが、劣勢形質が現れたり、元となる犬の性質からかけ離れていく可能性も高いため、海外では禁止されていることが多い繁殖方法でもあります。

アウトクロッシングとは、異なる犬種同士をかけ合わせることで、両親の特性を引き継いだ新しい犬種を作ることを目的で行われる交配方法です。

例えば、トイプードルとチワワをかけ合わせたチワプーや、チワワとダックスフントをかけ合わせたチワックスなどはアウトクロッシングによって生まれた犬種です。

近交退化と雑種強勢

『近交退化』とは、インブリードを繰り返し行った(オーバーブリード)結果、生まれた子犬に遺伝的な病気や奇形などといった様々な欠点が生じることで、主に

  • 生殖能力の低下
  • 病気などへの耐性や免疫力の低下
  • 体型の小型化
  • 男性形の減少や消失
  • 色素や歯の数の異常
  • てんかん

などといった欠点をもつ子犬が産まれやすくなります。

インブリードは確かにその犬種の血を濃くし、純血を保つために行われるのが目的ですが、オーバーブリードになるほどのインブリードは生命への冒涜ともいえ、決して好奇心や遊び半分で行うべき交配方法ではありません。

逆に、同一動物種内でかつ異種犬種による交配により、両親の優れた特性を持って生まれることを『雑種強勢』と呼び、純血種よりも病気への抵抗力や免疫力が高く、強靭な個体が産まれやすいとされています。

欠点としては両親の遺伝子に共通点が少ないため、どんな子犬が産まれてくるか予想がつかないところですが、純血を保つことを交配の主目的とするのでない限りは両親より優れた個体が産まれる可能性の高いこちらのこちらの方がメリットが高いといえます。

1.3.犬の妊娠

犬の妊娠期間は、交配してからおよそ58~63日(約2カ月)とされています。

交配後20日ごろ、大体1~3週間は『妊娠前期』とされ、受精卵はこの妊娠前期あたりに着床します。

この時期の母犬は食欲不振や嘔吐など所謂『つわり』の症状を見せます。

小型犬の場合、ごくまれではありますが妊娠15~20日ごろに子宮ヘルニアを引き起こすことがありますので、注意深く経過観察するようにしましょう。

交配後4~6週間ほどの期間を『妊娠中期』と呼び、この期間の兆候としては、妊娠5週目あたりに乳腺が張りはじめ、6週目以降はお腹が膨らんでいきます。

食欲も妊娠前期と比べて大分増し、母体の体重も増加し、お腹の赤ちゃんも成長を開始し始めます。

身体的に大きく変化するだけでなく、精神的にも変調をきたす時期でもあり、気分的に沈み、あまり活動したがらなくなります。

この時期に母犬が排泄するおりものに悪臭や色が赤黒いといった以上が見られる場合は、子宮捻転を起こしている可能性があり、最悪流産する可能性があるため、至急かかりつけの動物病院へ行き、獣医師に診察、処置を施してもらう必要があります。

交配後50日が経過した、7~9週間の期間を『妊娠後期』と呼び、8週目あたりから母体のお腹にいる子犬の動きも活発化し、胎動を感じられるようになります。

この時期になると子犬の頭数や頭の大きさなどをレントゲンなどで確認することができるようになります。

乳腺も張り、乳汁が出るようになり、子犬を出産する準備が整い始めます。

また、犬は出産前になると体温が通常よりも下がる(37.5℃)ため、妊娠後期に入ったら必ず毎日体温測定を行い、ノートなどに計測した体温を記録しておきましょう。

この時期に注意すべきはブルセラ症による流産です。ブルセラ症を引き起こすブルセラ・キャニスは、流産後1~6週間は母犬の体内にいるため、流産した子犬やおりもの、胎盤などの排出物は即座に処分するようにしましょう。

なお、ブルセラ症は人にも感染する人獣共通感染症であるため、処分する際には必ずマスクや手袋を身につけて行いましょう。

1.4.犬の出産

犬は分娩1~2日前になると、食欲不振になり、「ハァ、ハァ」とあえぐような呼吸(パンティング)をするようになり、震えや落ち着きがなくなり、地面を前足で掘るようなしぐさ(営巣行動)をするようになります。

特に、妊娠60日目以降はいつ子犬を産んでもおかしくない状態であるため、常に母犬の状態を観察し、いつでも出産に入れるように準備を整えておきましょう。

なお、妊娠56日頃に出産する場合は早産とされ、適切な処置を行えば子犬は健康に育ちますが、妊娠65日以上経っても子犬が産まれてくる気配が見られない場合は遅産とされ、子犬が育ち過ぎて自力では出産できない難産状態になることが多いため、場合によっては帝王切開を行わなければなりません。

そのため、難産になる可能性も考慮して、前もって帝王切開ができる費用を準備しておくとよいでしょう。

強い陣痛から2時間以内に第一子が産まれ、その後休憩を挟んで体力の回復を図り、残りの子犬を出産します。

胎内の子犬がすべて生まれた後に産んだ頭数と同じ数の胎盤を排出しますが、その際、母犬が胎盤を食べることがあります。

これは栄養補給もしくは外敵に出産を悟られないようにするための防衛本能とされ、食べても特に問題はないのですが、下痢になることもあるため数を確認したらすぐに処分するようにしましょう。

出産後、おりものが数日間排出されますが、あまりにも長く続いたりおりものの量が多い場合はかかりつけの動物病院に行きましょう。
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2.犬の出産にかかる費用

犬の出産に関わる費用については、交配相手も自前で用意でき、自宅で自然分娩で産ませる場合であればそれほどかかりませんが、種雄を一から探したり、各種妊娠検査を動物病院で行ったりする場合はその限りではありません。

また、自宅で自然分娩させる予定であっても万が一難産になり、帝王切開手術をする可能性も決して低くないので、そのための手術費も確保しておく必要があります。

2.1.交配相手(種雄)をレンタルする費用

番のオスがすでにいる場合は必要ありませんが、血統書付きの犬種を繁殖させる場合やメス一匹で飼っている場合はよそから種雄をレンタルしなければならないため、その費用について考える必要があります。

種雄のレンタル費用は金額に幅があるため一概には言えませんが、CHのタイトルを持つ血統書付きの優秀な遺伝子を持つオス犬を種雄としてレンタルする場合は、現金で10万円以上かかる場合があります。

また、生まれた子犬を種雄として提供してくれた側に1匹渡す『子返し』の場合でも、慣習として『卵代』(5,000円から)を支払うケースもあるため、注意が必要です。

また、死産や流産で子返し出来ない場合や、税別や外見など、希望の子犬が産まれなかった場合を想定して、種雄代や交配料などを現金で支払うか否かを提供者と事前に相談しておく必要があります。

いずれにしろ、お金だけでなく時間や犬の命といった様々な要因が絡むため、素人同士ではなくプロのブリーダーや動物病院など信頼できる仲介者を通して交配するようにしましょう。

2.2.妊娠検査などの諸経費

動物病院で愛犬の妊娠検査やエコー検査やレントゲンによる母子確認といった妊娠検査などの諸経費は動物病院によってバラつきがありますが、万が一、流産や帝王切開など、動物病院で手術を行わなければならないケースもあるため、手術代が支払えないといった状況に陥らないよう、最低10万円程度は常に用意しておく必要があります。

犬の妊娠検査の場合、妊娠前期あたりのエコー検査や診察代を合わせるとおよそ4,000~5,000円程度、妊娠45日以降の母子確認のためのレントゲン費や診察代は合わせて4,000~5,000円かかります。

自宅分娩で出産させる場合でも、妊娠検査や母子確認の検査は必ず行いましょう。

2.3.犬の出産費用

犬の出産費用は、自然分娩による自宅出産か、獣医師に協力してもらって出産させるか、若しくは難産だった場合の帝王切開手術で出産するかで大きく金額が異なります。

自宅で出産する場合は、産箱や体温計、その他飼い主が愛犬の出産を補助するための道具をすべて新品で用意する場合はおよそ8,000円程度で済みます。

愛犬が初産などで自宅で出産させるのが心配な場合は、かかりつけの動物病院にて獣医師に協力してもらい出産することになりますが、普通分娩の場合ですと、陣痛促進剤などや診察代込みでおよそ数万円程度かかります。

妊娠65日以上経っても生まれない、所謂遅産などによる難産の場合は、自力で出産することが困難であるため帝王切開手術を行う必要があります。

帝王切開手術の費用はおよそ10万円程度で、傷の消毒や抗生物質の投与、診察代なども含むとさらに費用がかかります。

「初産ではないし、自宅分娩でも無事出産で来たから大丈夫」と慢心せず、愛犬の出産費用は常に10数万円程度は確保しておきましょう。

3.自宅で出産する場合

妊娠42日以上が経過し、営巣行動といった妊娠の兆候が見られるようになったら、そろそろ自宅で母犬が出産できるように準備を整えましょう。

自宅出産の場合、母犬が安心して子犬を産めるように『産箱』を用意しておく必要があります。産箱は市販されているものもありますが、段ボール箱などでも自作することが可能です。

産箱のサイズの目安としては、左右奥行きのサイズが母犬の体長の2倍程度の大きさで、外部から見られないように遮蔽する壁は15~20cm程度の高さにしましょう。

小型犬の場合はおよそ20cm程度のダンボール箱でも充分代用可能です。

産箱以外にも、もし母犬が生まれたばかりの子犬の羊膜を破らず、舐めたりへその緒を噛み切らないといった状況も考え、飼い主が補助するための道具も用意しておく必要があります。

そのため、最低でも

  • 体温計
  • 清潔なタオルやガーゼ
  • 木綿糸
  • 消毒したハサミ
  • はかり
  • 子犬用粉ミルク
  • 子犬用哺乳瓶

などの道具をなるべく新品のものを用意しておきましょう。

特にタオルとガーゼは使用頻度が高いためできるだけ多く用意しておきます。

はかりは調理用のものでも大丈夫ですが、できるだけ3kg程度計量できるものを用意しておきましょう。

木綿糸及びハサミはへその緒を胎盤から切り離す際に用いるため、こちらも新品かつ消毒したものを用いましょう。

子犬用ミルクと哺乳瓶は、母犬が子犬に授乳しない場合を想定して飼い主が代わりに授乳するために用意しておきます。

特にミルクは残り物を用いると劣化している可能性もあるため新品のものを用意しておきましょう。

3.1.出産に立ち会う場合

出産兆候が見られ、事前に自宅分娩に必要な道具などを用意したら、愛犬の出産に立ち会う準備を始めましょう。

小型犬の場合、横になった姿勢で、中・大型犬の場合は排泄を行うのと同じ姿勢で出産します。

それぞれ小型犬なら2~3匹、中・大型犬なら6~10匹ほど産まれます。

生まれたばかりの子犬は羊膜に包まれ、通常は母犬が羊膜を破ってへその緒を噛み切り、子犬の鼻先をなめて自力で呼吸で切るように促します。

その後、自分の乳あたりの場所に子犬を引き寄せて授乳させるのが通常の犬の出産の流れです。

その後、第一子が産まれてしばらく休憩を挟み、体力と筋力が回復したら残りの子犬を産み、同じように母犬が羊膜を破ってへその緒を噛み切り、鼻先をなめて自力呼吸を促して授乳させるのを最後の1匹まで行います。

通常ならば、母犬だけで出産から子犬の世話まで行いますが、初産など何らかの理由で母犬が子犬に対して世話を行わない場合は、飼い主の補助が必要になります。

3.2.子犬が産まれてこない場合

頭や足などが出てきているのに、中々出てこないときに無理やり母犬のお腹を圧迫すると、子宮破裂を招き、母子ともに命の危険にさらされます。

そのため、出かかっている子犬の頭や足などをすべらないよう清潔なタオルやガーゼなどで包み、しっかりとつかんで母犬の陣痛に合わせてゆっくりと引っ張り出すようにしましょう。

もし、上手にできそうになく、不安であればかかりつけの動物病院の獣医師に連絡をとってサポートしてもらいましょう。

3.3.母犬が羊膜を破らない、へその緒を噛み切らない、舐めない場合

母犬が生まれた子犬の羊膜を破らない場合は、飼い主が羊膜を破り、子犬が呼吸できる状態にして母犬にへその緒を噛み切らせ、なめさせるようにしますが、それでもへその緒を噛み切らず、舐めようとしない場合は、飼い主の手でへその緒を切って子犬の体を清潔なガーゼなどでふき取ってやる必要があります。

へその緒を切る場合は、まず子犬のお腹から2cmほどの場所を木綿糸でしっかりと縛ってから、胎盤側のへその緒をあらかじめ消毒しておいたハサミで切りとり、清潔なタオルやガーゼで少し強めに子犬を拭いてやります。

この時、子犬が刺激を受けて産声を上げて自力呼吸するため、もし母犬が反応を示したら、子犬を返してあげましょう。

もし、母犬が子犬のへその緒を噛み切ったときに出血が止まらない場合は、子犬のお腹から1~2cmくらいの場所に木綿糸をへその緒を切ってしまわない程度の強さで固く、しっかりと結び付け、出血した部分にガーゼなどを当てて止血したかどうか確認し、血が止まっていれば先ほど結んだ箇所より少し距離を置いて同じように木綿糸で結びつけます。

もし、止血処置を施しても血が止まらない場合は、子犬の命にかかわるため、至急かかりつけの動物病院に行き、獣医師に適切な処置を施してもらいましょう。

3.4.子犬の体重測定

子犬の体重測定は子犬の発育や健康に大きく関わってきますので、なるべく正確に測り、ノートなどに記録しておきましょう。

出産後の母犬は攻撃性が高まるので、第一子が産まれて産声を上げ、自力呼吸ができるようになったら次の出産までの間に第一子の体重をはかりなどで測定しましょう。

3.5.子犬と胎盤の数がピッタリ合うか確認する

犬は子犬の出産を終えると、胎盤を娩出しますが、もし子犬との数がピッタリ合わない場合は、母犬の胎内に胎盤が残っている可能性があります。

通常ならしばらく時間を置けば自然に娩出されますが、2~3時間たっても残りの胎盤が出てこない場合はすぐに動物病院に行き、適切な処置をしてもらいましょう。

3.6.母犬が授乳しない場合

母犬が子犬に授乳しない場合は、子犬用ミルクを子犬用哺乳瓶で与えます。

もし哺乳瓶で子犬がミルクを飲もうとしない場合は授乳用のスポイトなどを用いて授乳します。

ミルクの量と与える回数は、犬のサイズによって異なりますので、必ずパッケージに表記されている適量と回数を守って授乳しましょう。

また、子犬が母犬の乳房に吸い付こうとしないときは、羊水と母犬の唾液を子犬の鼻先と母犬の乳房に少しつけ、同じ臭いであると覚えさせ、子犬が乳房に吸い付き、吸乳を促しましょう。
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4.妊娠から出産までの注意点

愛犬の妊娠から出産まで、飼い主が気にかけてやることはたくさんありますが、特に母犬は妊娠(偽妊娠も含む)から出産の期間まで、母性が高まることで防衛本能が働いて攻撃的になり、また神経質になりやすいため通常よりもよりストレスを感じやすくなっています。

そのため、子犬の離乳および偽妊娠の終了までは、いたずらに母犬を刺激しすぎず、あくまで飼い主はサポートとして暖かく見守ってあげましょう。

4.1.妊娠から分娩までの間

分娩までの間、体力や筋力が衰えないように母犬に運動させることです。とはいえ、激しい運動は流産などの原因になるため、ほどほどに適度な運動に留めておきます。

また、出産一週間前まではブラッシングをこまめに行い、血行をよくして母体を清潔に保つことも重要です。

出産間近になったら、子犬に授乳しやすくなるよう胸部から腹部にかけて、また出産しやすいよう肛門付近の体毛もあらかじめ短めにカットしておきましょう。

ノミ・ダニ予防薬に関しては、妊娠中でも投与可能なお薬がありますので、かかりつけの動物病院の獣医師に相談してから投与するようにしましょう。

混合ワクチンなどの予防接種は、妊娠中に接種することはできないので、あらかじめめ交配1~3週間前に接種するようにしましょう。

4.2.母犬の出産時に注意すること

出産のときは、自宅での自然分娩の場合は母犬の力で出産することになりますが、万が一難産になる場合は、帝王切開が必要となってきます。

難産の兆候としては、

  • 陰部(子犬が産まれてくる場所)から子犬の体の一部が引っかかっている
  • 陰部から羊膜が出ているにもかかわらず、2時間以上分娩の気配がない
  • 20~30分ほど陣痛が起きても一向に分娩が起こらない
  • 最初の子犬が産まれて4時間以上経過しても2匹目以降が産まれてこない
  • 分娩前から緑色のおりものを排出している

などの症状がみられます。

もしこれらの兆候が当てはまったら、速やかにかかりつけの動物病院へ行き、帝王切開手術をしてもらいましょう。

また、いつでも対応してもらえるよう、事前にかかりつけの動物病院の獣医師と相談しておくと、万が一の場合でもスムーズに対応してもらえます。

4.3.出産直後に注意すべきこと

出産後、子犬と胎盤の数を必ず確認しましょう。もし胎盤の数が子犬と合わない場合は、母体に胎盤が残留する『胎盤停滞』の可能性があります。

通常ならしばらくすれば胎内にとどまっている胎盤も娩出されるのですが、2~3時間以上たっても出てこない場合は速やかに動物病院へ行きましょう。

生まれた子犬は、まれに『新生子衰弱症候群』になることがあり、症状としては乳を吸わず、鳴きながらせわしなくうろうろと動き回りながら、呼吸がうまくできず酸欠状態(チアノーゼ)になり、体温もどんどん下がって衰弱し、最終的に命を落としてしまいます。

これらの症状は24時間以内に起こるため、子犬が生まれて数日間は母犬の神経を逆なでしないように子犬の様子を十分観察しましょう。

4.4.出産後の母犬に対するケアと注意点

基本的に子犬の世話は母犬が行い、飼い主はサポートに回ります。この時期の母犬は特に神経質になっているため、意味なく子犬をとりあげたりすると母犬の精神に多大なストレスがかかります。

また、攻撃性も高まっているため不要な接触は思わぬケガの元になるため、過干渉は避けましょう。

母犬の体のケアとして、おりものは産後数日間排泄されるので、ぬるま湯に浸して絞ったガーゼやタオルなどで汚れをふき取って常に清潔を保ちましょう。

また、1日1回、硬さや温度など乳腺の状態をチェックし、乳腺炎にならないよう注意しましょう。

もしなりかけている場合は、ぬるま湯(40℃)のお湯に浸して絞ったタオルなどを当てながらマッサージし、溜まった母乳を絞り出します。

このとき、上手く母乳が出なかったり、母犬が痛がったら動物病院に行き、獣医師に相談しましょう。

また、子犬に母犬が授乳しているとき、母乳の出方もよく観察してみましょう。

充分に足りていればよいのですが、母乳の出方が悪かったりして子犬に十分授乳できていない場合は、飼い主の手で人工授乳することになります。

人口授乳するときは、必ず子犬用のミルクと子犬用哺乳瓶および授乳用スポイトを用いましょう。

帝王切開で子犬を産んだ場合は、毎日傷の消毒を行い、獣医師から処方された抗生物質を必ず指示された量と回数を守って投与しましょう。

このとき、傷の消毒は子犬への授乳が終わってから行います。

もし、傷が化膿していた場合は速やかに動物病院へ行き、獣医師の診察を受けて適切な処置をしてもらいましょう。

5.まとめ

今回は犬の妊娠・出産と必要経費、および注意点などについてご説明させていただきましたがいかがでしたでしょうか?

特にメス犬を飼っている飼い主の中には、「そろそろ愛犬にも子供を産ませたい」とお考えの方も少なくないかと思われます。

確かに、愛しい飼い犬が産む子犬はきっと愛くるしくてしかたない、こんなにかわいい愛犬が産むのだからかわいい子犬が産まれて当然だとお考えの方もきっと多いことでしょう。

ですが、無計画に愛犬に子供を産ませることは愛犬の健康面や経済的な面でもあまりお勧めできません。「愛犬の子は絶対にかわいいだろうから産ませる」という短絡的な理由で子犬を産ませることはかえって不幸を招きかねないからです。

「愛犬に子犬を産ませるということは、多大な責任が必要になる」ということを念頭に置き、明確に計画を立て、必要な知識や費用を十分に蓄えたうえで愛犬の妊娠・出産に臨むようにしましょう。
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